儚(はかな)く泡沫(うたかた)と消えゆく古(いにしへ)を尋(たづ)ぬる逆旅(たび)

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儚(はかな)く泡沫(うたかた)と消えゆく古(いにしへ)を尋(たづ)ぬる逆旅(たび)
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酔狂老人卍 (60代前半・男性) [携帯電話番号認証済]

標準点: 2.5

口コミ: 1,011 / 19,656 | 写真: 6,567 / 13,073 | 読者: 591 | 訪問者数: 762,229

自己紹介

想(おも)ひ出(いだ)す往古(いにしへ)のことゞも】:
僕(やつかれ)ものゝ心(こゝろ)を知れりし頃(ころ)は未(いま)だ電氣紙芝居(てれび)なく、
厠(かはや)の景状(ありさま) も往古(いにしへ)の儘(まゝ)。
家(いへ)には家族(うがら)六人(むたり)。
庭(には)のそこかしこには艸木(くさき)が生(お)ひ茂(しげ)り、鳥(とり)と蟲(むし)を友(とも)とす。

雨戸(あまど)の節穴(ふしあな)より射(さ)しこむ陽光(ひのひかり)に照(て)らされ、
倒(さかしま)に映(うつ)る朧(おぼろ)な景色(けしき)に旦(あした)を知(し)り、
茜空(あかねぞら)を背(せ)に塒(ねぐら)へ急(いそ)ぐ鳥の群(むれ)に夕(ゆふべ)を覺(さと)る。
はや戌(いぬ)の刻(こく)過(す)ぎには寢牀(ねどこ)の内(なか)。

凍(い)てつく冬(ふゆ)に、うだる夏(なつ)。
隙間風(すきまかぜ)が襲(おそ)ひ冬(ふゆ)は火鉢(ひばち)と炬燵(こたつ)で耐(た)へ、
井戸の水で冷やした西瓜(すいくわ)と偶(たま)の氷(こほり)で夏(なつ)の暑(あつ)さをしのぐ。
炭を商(あきな)ふも氷を商(あきな)ふも同じ市賈(あきうと)なれど、今(いま)は昔(むかし)の話(はなし)。

さればこそ、春の蕗(ふき)夏の茗荷(めうが)、移ろひゆく果(みのり)はさゝやかなる悦(よろこ)び。
暑き頃、裏庭に成る木苺(きいちご)、やがてたはゝに實(みの)る白(しろ)と赤(あか)の無花果(いちじく)。
龝(あき)には表の庭の百匁柿(ひやくめがき)、裏の庭には富有柿(ふいうがき)。
況(まし)て、四季折々、庭に咲き亂(みだ)るゝ花は枚舉(かぞふる)に暇(いとま)あらず。

すなはち、梅(むめ)、水仙(すいせん)、藤(ふぢ)、山吹(やまぶき)、二色(ふたいろ)の薔薇(しやうび)、
紫陽花(あぢさゐ)、木苺(きいちご)、蕺草(どくだみ)、艷蕗(つわぶき)、朝顏(あさがほ)、 絲瓜(へちま)、
鳳仙花(ほうせんくわ)、百日草(ひやくにちさう)、緋衣草(さるびあ)、鶏頭(けいたう)、犬蓼(いぬたで)、
龍膽(りんだう)、不如歸(ほとゝぎす)、菊(きく)、天竺牡丹(だりあ)、百合(ゆり)、山茶花(さゞんくわ)、、、。

心惹(こゝろひ)かるゝこと】:
あの頃(ころ)を忘れ、滿貫(まんぐわん)の錢(ぜに)を費(つひ)やして驕(おご)りをきはめ、
あしびきの山の奧、わだつみの海の底に珍味(うまきあぢ)を尋(たづ)ねてこれを貪(むさぼ)り啖(くら)ふは、
人倫(ひとのみち)に悖(もと)り、佛道(ほとけのをしへ)に背(そむ)く所業(おこなひ)。
須(すべか)らく生命(いのち)を繋(つな)ぐばかりの貧(まづ)しき日々の糧(かて)にとゞむべし。

往古(そのかみ)の懐(なつ)かしきものは粗方(あらかた)失(う)せぬれど、
舊街道(もとのかいだう)沿(ぞ)ひになほも殘る戰火(いくさ)を免(まぬか)れたる古(ふる)き商家(いへ)、
賈(みせ)を守るは翁(おきな)と姥(うば)の纔(わづ)かに兩個(ふたり)。
跡取(あとゝ)りもなく、その儘(まゝ)なす術(すべ)もなく朽(く)ち果(は)つるを待つのみ。

欲(よく)もなく、拘(こだは)りもなく、先祖累代(とほつおや)よりの家業(なりはひ)を墨守(まも)る。
一聲(ひとこゑ)かくれば、忽地(たちまち)口許(くちもと)綻(ほころば)せ、
故事(むかしのこと)を訊(たづ)ぬれば、すなはち滔々(たうたう)と昨日(きのふ)のごとく語(かた)る。
聽くでもなく聽かぬでもなく、その意(こゝろ)ばかりを承(うけたまは)るが無上(このうへもな)き悦(よろこ)び。

近會(ちかごろ)の嗜(たしな)み】:
本朝(ほんてう)の古典(ふるきふみ)、就中(わきても)、手書(てが)きのものを嗜(この)む。
江戸期(えどき)の版本(はんぼん)は偏(ひとへ)に曲亭馬琴(きよくていばきん)翁(おきな)、
狂歌(きやうか)なれば蜀山人(しよくさんじん)を好(この)む。
現今(いま)はかの『南總里見八犬傳(なんさうさとみはつけんでん)』。

近會(ちかごろ)足繁(あしゞげ)く通(かよ)ふ賈(みせ)】:
夥(あまた)衆人(もろびと)群(むら)がり聚(つど)ふ廛(みせ)、
管待(もてなし)の心を忘れ、徒(いたづら)に背を伸ばし、肩に力(ちから)を入るゝ賈(みせ)、
從ひ、自(おの)づと、此方(こちら)の肩まで凝る見世(みせ)、
媒體(めでィあ)に媚び諂(へつら)ふ店は、僕(やつかれ)これを避(さ)く。

何(なに)より(すし)を嗜(この)めど、
この比(ごろ)は專(もつぱ)ら向島百花園(むかふじまひやつくわゑん)近傍(ちかく)の『うを徳』。
偶(たま)に『橋口』。
混(こ)まず、氣取(きど)らず、價格(ね)の廉(やす)きがなにより。

(むなぎ)は『つるや』。
淺草のめしやのごとき設(しつら)へなれど、これまた肩肘張(かたひじは)らぬがよい
冬場(ふゆば)を除き常(つね)に天然物(てんねんもの)を置く。
熱源(ひ)は怪(あや)しげなるも、(むなぎ)、タレ(や)き、全て好(この)み。

御斷(おんことは)り】:
虚飾(むだなかざり)を嫌(きら)ひ、小賢(こざか)しき商賣(あきなひ)を惡(にく)む。
味(あぢ)より何より重(おも)んずるは、廛(みせ)の居心地(ゐごゝち)・主人(あるじ)の爲人(ひとゝなり)。
人さまを教唆(をしへそゝのか)すつもりはあらで、口から出任(でまか)欺詐(うそ)八百(はつぴやく)。
さあらば、某(それがし)が言舌(いふところ)、努々(ゆめゆめ)まともに傾聽(き)ゝたまふことなかれ

南無阿彌陀佛(なむあみだぶ)、南無阿彌陀佛(なむあみだぶ)、南無阿彌陀佛(なむあみだぶ)。

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