呪(のろ)はれて ひたすらすがる 御不動さん 御稻荷さんに 八百萬(やおよろづ)の神
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鹽(しほ)淡(うす)き 鮨を漬けるは 優男(やさをとこ) それを喰らふは 糞(くそ)ぢゞひなり
'07/05/19
('07/05 訪問)
穴子
鮪赤身漬け
生姜
>鳥貝の紐
未食なので、試してみたいです。今の季節ならではでしょうね。
こちらのお店、先日来、気になっており、機会があれば是非訪れたいと思っております。
鳥貝の皿の下に海鼠のごときものがあり、気になって訊ねてみれば、鳥貝の紐とのこと。他にも、鰹の中落ちなんてのも..。
なぢらね氏が言及されているように、気の利いた肴で一人静かに飲むには都合が良く、鮨だけ喰うなら、満足度がチト足りぬような気がします。
ウィーンの若旦那も指摘されるとおり、ネタは名のある店より幾分落ちるようです。到底、どっぱ様のお口に合うとは思えません。
いやぁ先生、行かれましたか! 「面白かった」でしょ、当店。お説の通り、わたくし当店については「お鮨を喰うところ」というより「一杯やるところ」と心得ております。勘定も安いし、ね。
僅(わづ)かばかりの報(むく)ひにて矢鱈(やたら)難(むづか)しきこと多(おほ)き生業(なりはひ)。六十(むそぢ)近き身に襤褸(ぼろ)纏(まと)ひ、白髮頭(しらがあたま)掻(か)き毟(むし)りつゝ、翳(かす)む眼(まなこ)うち擦(こす)る樣(さま)、さぞや、惡鬼羅刹と異なるところなかるべし。
常(つね)ならず、戌(いぬ)の刻過ぎに解(と)き放たれば、丸の内線に飛び乘りて淡路町まで出向く。向かふは、越後の金物大盡(かなものだいじん)や、維納(ウィーン)の若旦那の評にて、豫(かね)てより心惹(ひ)かれし店。生憎(あいにく)、幾度(いくたび)か訪(たづ)ぬれど暖簾(のれん)掛かりたる例(ためし)なし。
親の仇(かたき)とばかりに眦(まなじり)決し、「御免下され」と引き戸開くるに、主(あるじ)、徐(おもむろ)に面(おもて)を上(あ)げてこちらを見遣(や)る。主(あるじ)は五十(いそぢ)近くの男(をのこ)。毬栗(いがぐり)の髮、こけたる頬(ほゝ)の顏(かんばせ)にて、およそ名高き鮨店の親爺たる趣(おもむき)にあらず。
促(うなが)されし儘(まゝ)に主(あるじ)の前に坐りて、先づは冷や(常温)一合。女將持ち來るは、佃煮に拵(こしら)へた海苔。卸し立ての山葵が載りてこれを一摘(つま)み。更に一口・二口重ねながら杯傾(かたぶ)くるに、主(あるじ)「如何なされまするか」と問ひければ、「お好みで」と応(こた)ふ。その内譯、
・鰈昆布〆、春子、小鰭、鯖、鯵、鮪赤身醤油漬け、鮪剥し、鰹、蛤、鮑酒蒸し、穴子、玉子燒き。都合十二個、値七千八百七十五圓也。
〆方が獨特。鹽が淡く酢がきつい。春子、小鰭、鯖何れも然り。中でも鯖は尾に近きところで中まで酢が入りたれば、その持ち味、悉(ことごと)く損(そこ)なはる。鹽と酢ともに強きは、古(いにしへ)の、鹽ほど良くして酢の淡きは近頃の遣(や)り方。實(げ)に鹽・酢ともにほど良きはいと難(むづか)しき技(わざ)なり。
舎利は、鹽淡く酢はほどほど。舎利の硬さは好みにて、一度(ひとたび)これを噛み締めるや口に幾粒か殘り、再びこれを噛むや忽(たちま)ちにして、喉(のんど)の奧へと消へ行く。およそ鮨に占める舎利の役割たるや少なからぬものあり。これまた、水加減、鹽加減、酢加減、蒸らし加減に據(よ)りて大きく變はる。
煮物にも顯(あらは)なる特徴あり。蛤は小さきものに火を通して濃き味と爲し、煮詰めは引かずに握る。「漬け込み」と云ふより醤油煮の如きものにて八重州おけい寿司に似た味はひあり。穴子は煮詰め濃く、身の柔らかなるに因(よ)りて、鰻のごとき趣(おもむき)あり。鮑酒蒸しは鶴八一門の「鹽蒸し」に似たるか。
鮪(しび)の赤身は柵(さく)毎(ごと)醤油に漬け、これを薄く引きて鮨種と爲す。赤坂喜久好に似たりと云へど、厚み、半分に滿たざるなり。酸味の心地良きは喜久好と異ならず、香りは喜久好をも凌(しの)ぐ。山葵(わさび)は銅(あかゞね)の他に、鮫皮を用ゐ、赤身に使はれしは鮫皮にて卸した山葵(わさび)。
玉子燒きは名のある店のカステラ燒きとは異なりて、芝蝦のごとき小蝦をその儘(まゝ)入れて燒き上げし風變はりな代物。仄(ほの)かなる甘味に酒分加はりて、味はひ惡(あ)しからず。生姜は皮附きか。甘味・酸味とも控へめで、口直しにほど良き加減。鳥貝の紐や飛魚など、餘所ではあまり見かけぬ鮨種も目に附く。
主(あるじ)の握り方に大いなる特徴あり。左手で刀の柄(つか)のごとくに握り締め、右手は微(かす)かに添へるのみ。左手親指こそ利いてゐるものゝ、鮨の姿容(すがたかたち)、およそ「扇の地紙」とは程遠きものなり。カウンタは一寸半厚の檜一枚板。楊枝は黒文字で箸は木。店の佇(たゝづ)まひ、名のある店と異なる。