2回
2018/03 訪問
香港の杭州料理の名店「天香楼」 オンリーワンの味の殿堂
私が初めてこの店を訪れたのは、10年ちょっと前、香港を中心に手広くフードビジネスをされている人から「香港でナンバーワンになる店」だからと言って連れてきていただいた。
今回ここを訪れたのは、かつての取引先で、数年前まで日本で事業をしていたが今は引退して香港で暮らしている華僑の方との食事。
実は、彼が香港に戻ってしばらくして私が香港を訪れた時に彼をこの店に招待した。
彼はこの店をとても気に入って、それ以来私が香港に来ると彼とここで食事をするのがパターンになっている。
ここ「天香楼」は「杭州料理」の店。
杭州は日本ではあまり馴染みはないが、日本語が堪能な上海のスタッフに言わせると、昔から「食は広州にあり」というけれど、今では「食は杭州にあり」と言われるぐらいのグルメな土地だという。
高級茶葉の「龍井茶」や「紹興酒」の産地を抱え、肉や野菜や淡水魚などに恵まれている。
クセのある食材を調味料やその調理法によって美味しい料理にすることに長けているという。
私も、杭州にある「こじき鶏」で有名な「楼外楼」には何度か行ったことがあるが、その味とともにメニューの豊富さにびっくりしたものだ。
今回は、彼がメニューを組んでくれた。
時期的には終わったはずの「上海蟹」も用意されているという。
ちなみに、彼とは日本に居た頃「食」にまつわる仕事もしていたので「写真撮影」も大丈夫だ。
「酔っ払い蟹」
28年物の紹興酒に漬け込んだ蟹。
蟹というよりウニを食べているような濃厚でねっとりとした絶品料理。
「淡水海老の龍井茶葉炒め」
塩で下味をつけた海老を龍井茶の葉とともに軽く火を入れたもの。
プリっとした歯ごたえとトロっとした食感が絶妙。
「東坡肉」
壺に入った杭州料理の代表格の豚の角煮「東坡肉」。
見た目のいびつさとは裏腹に、口に入れると脂身はすぐに溶け、しっとりとした肉の奥の深い味が印象的。
「上海蟹」
今回の上海蟹はかなり大ぶりのもので、足などの身はすべて捨ててミソと卵の濃厚な味のみを味わうぜいたくな食べ方。
店の人曰く「上海蟹」の身は小ぶりのものの方が旨いらしい。
「こじき鶏」
彼の私に対する今日のメインディッシュ?
目の前で割られた塩釜の中から蓮の葉にくるまれた鶏が香ばしい香りとともに登場。
「楼外楼」のそれと比べると上品な味で、複雑に配合された紹興酒や調味料による下味のせいか、鶏臭さは全くなく奥深い味になっている。
「蟹みそまぜ麺」
「東坡肉」とともにここに来ると必ず食べるスペシャリティ。
やや太めの茹で麺に、蟹の身とみそと卵で作った餡と特製のタレをかけて食べる。
これ1杯で8000円ほどするが、期待を裏切らないまさに絶品の味。
「白玉のスープデザート」
奥深い甘さとさわやかな後味の隠れた人気デザート。
おそらく、付きだしの「大根漬け」とともに料金に含まれていると思われる。
どれも素晴らしい逸品だった。
ただ、この店の味はいわゆる「優等生的料理」ではない。
素材の持つクセを消し去らず、漢方や発酵調味料などでその持ち味を生かしたオリジナルの味に仕上げている。
なので、決して万人受けする味ではないかもしれない。
「ホテル的中華」が好きな人は嫌う人も多いかもしれない。
でも、私にとっては、例えば横浜の中華街にあった「海員閣」や先代の「四五六菜館」、パリにあった「金精酒家」のような、まさにオンリーワンの味を提供する今の香港で最も美味しい店だと思う。
ちなみにこの店の料理代金は概して高い。
今回は「上海蟹」系メニューが多く、事前予約のものも有り、お酒も高価なものを選んだのでひとり当たり4万円を大きく超えているだろうが、でも「上海蟹」系をやめて「杭州料理」に徹すれば、人数によってはひとり1万円以下で済むかもしれないし、名物「蟹みそまぜ麺」を加えても1.5万円程度も可能かもしれない。
ただ、このお店は英語が通じない。
値段の書いていない日本語のメニューが有ったり、店員も片言の日本語を話すが当てにはならない。
高額なメニューの多い店ゆえ、ハイパフォーマンスを求めるなら、地元の人もしくは広東語のできる人と行くことをお勧めします。
2018/03/31 更新
今から10年以上前に最初にこの店を紹介してくれた香港フードビジネス界の重鎮の予言通り、今やこの店は香港のグルメ界ではNo.1と言っても過言ではない評価を受けるようになった。(中国料理の分野ではほとんど機能していない『ミシュラン』とは無縁だが・・・)
元は中国の隠れたグルメどころ杭州料理の店だったが、中国でも良質のものはそのほとんどが香港に来るといわれる上海蟹の中でも上質のものが一年中提供できるこの店は評判になり、今やググル君も含めて「香港で上海蟹といえば『天香楼』」と言われるようになった。
最近私がこの店に来る時は、日本で長年懇意にしていて現在は香港在住の華僑の方と来ることが多い。
今回は「時間がないので」と断ったのだが、「上海蟹の時期だから」というもっともらしい理由でのミエミエの誘いを断り切れずにオメオメとやってきた。
店内は相変わらずの賑わい。
今回は日本人も2組ほどいるようだ。
今回は「上海蟹」をたらふく食べようという事で、そのメニューも彼が組んでくれたのだが、中国では「蟹」は体を冷やすといわれていて、その点を十分に配慮したメニュー構成だった。
彼とは日本で「食」に関わる仕事もしていたので「写真撮影」も大丈夫。
メニュー内容は下の写真をご参照ください。
文字通り「上海蟹づくし」のメニューだったが、最初に十分に体を温めておく必要があるということで、「金華ハム」や味の濃い「酔っ払い蟹」とともに「紹興酒(28年物)」を楽しみ、「蟹の卵とふかひれのスープ」で体を温めていよいよ「上海蟹」をいただく(既に二品食べているが・・・)。
今回、わたしたちは味噌や卵を楽しむ大ぶりのものと、味噌とともにその身も楽しめる小ぶりのものの、ひとり2杯(実際には、酔蟹やスープや麺もあるけど・・・)の上海蟹を楽しんだ。
直後には、体を温める「生姜と黒糖のドリンク」を飲む。
やはり「医食同源」の意識は我々日本人とは比較にならないほどだ。
そして締め?にこの店の超名物「カニの身と卵の和え麺」を味わい、最後は店からのサービスデザートである「白玉ポンチ」をいただく。
最初の頃はどうでも良かったこのデザートも、そのしつこくない果糖のようなさわやかな甘さゆえ、最近ではこれを食べないとどうもこの店に来た気がしないようになってきた。
人間、慣れとは恐ろしいものだ。
私たちはこうして今回も「天香樓」を楽しんだ。
今回はシーズンという事で「上海蟹づくし」にしたが、この店は先にも述べた通り元々杭州料理の店。
今までここに来た時には必ず食べていた「東坡肉」も「海老の龍井茶葉炒め」も今回は食べていないし、前回食べた杭州料理「こじき鶏」もまた食べたい一品だった。
私は、正直この店が「上海蟹ありき」で高評価を得ているとは思っていない。
実際、杭州で有名な「楼外楼」や「杭州飯店」などにも何度か行ったが、この店は本当に美味しいと思うものが多い。
以前にもよく食べていた「塩豚」や「田鰻」や「汁そば」も美味しい。
また「上海蟹」のメニューさえ食べなければひとり1万円以下も十分に可能だ。
ただ、この店は日本語はおろか英語も覚束ない。
特に日本人には「値段の書いていない日本語メニュー」を見せて高額料理を注文させようとするようだ。
先の日本人の人たちもかなりしつこい誘導にあって四苦八苦しているようだった。
高額な料理が多いが安くて美味しい料理も多いので、お金に糸目をつけないという人は良いが、予算を決めてハイパフォーマンスを求めるなら、広東語のできる人と行くか、少なくともグランドメニュー(広東語と英語のみ)をじっくり見て選ぶ方が良いと思います。
また、ミシュランが好きそうな「ホテル中華」のような優等生的料理を「高級」だと思っている人は避けた方が良いでしょう。
この店は、素材のクセをただ闇雲に消し去るだけではなく、多くの香港や中国や中華街などの老舗の高級料理店のように、そのクセを含めた持ち味を生かし、漢方や発酵調味料などを加えた「味の足し算」でオリジナルの味を作っているタイプの店だ。
なので、多くの料理がここでしか食べられない「オンリーワン」の味になる。
そんな味を求める人には間違いなくお勧めしたい名店です。