3回
2022/02 訪問
岩手県吉浜の干し鮑の特別コース
5カ月ぶりの再訪である。昨年の初訪問ですっかり川田シェフの虜になり、この再訪をとても楽しみにしていた。
麻布の大使館が多くある坂の多い閑静な住宅街の一角にあるこちらのレストランは建物自体がとても素敵な感じで入る前から期待してしまう・・・そんな感じなのである。
今回は早い時間からのディナーであった。
店内に入りメインフロアの奥の席に案内され、席はたまたま前回と同じところであった。照明を少し落としたムーディーな雰囲気が気分を盛り上げてくれる・・・
またスタッフの方はすべて黒服で統一され、接客のプロ集団という感じを受けた。実際サービス面に関しては全く非の打ちどころがなく満足であった。
席に座ると前回と同じように川田シェフが席まで来てくれ挨拶してくれた。短い挨拶ではあったが、これがあるのとないのでは大違いである。やはり厨房の中だけにこもって料理しか見えない店とこうやってシェフの顔が見える店ではおのずと味の感じ方も変わってくるのである。
有名店になっても初心を忘れない、そんな素晴らしいシェフであった。
そしてこの日は岩手県吉浜の干し鮑を使った特別コースをお願いしていた。干し鮑の料理というのはある面、中華の最高峰の料理である。香港の有名中華料理屋では使用する干し鮑によっては何十万円もすることがあるらしい。もちろん私は経験したことはないのだが・・・
席に置かれた封筒の中にはおなじみの四字熟語が書かれていた。漢字の意味を推察しながら次の料理を想像するのは楽しいものである。想像通りの料理がやってくると何だか嬉しく感じるのは私だけではないだろう。
さてこの日の料理の四字熟語表記は
香虎竹茶
酒酔大蝦
文蛤春捲
蜜汁叉焼
遠江海蜇
雉雲吞湯
清淡干鮑
清蒸河豚
麻辣河豚
清炒豆苗
茶禅鴿子
であった。
最初の「香虎竹茶」は竹の筒の器に入れられた香川県のお茶の中に極細の素麺が入っていた。竹の香りを感じながら最初に頂く素麺はさらに食欲をそそらせてくれる・・・そんなトップバッターからのスタートであった。
そして2品目の「酒酔大蝦」はボタン海老の紹興酒漬けであった。これは前回も頂いたが中華の香りのする極上品・・・これも美味しかったなあ~~
そして蛤の春巻きの登場!!サクサクっとした衣の中には蛤の旨味がぎっしり詰まった具が入っており、ちょっと箸休め的な美味しさであった。またそこに合わせたパクチーのアクセントが素晴しかった。
その次には定番の炭火の入ったコンロの上に分厚いチャーシューが乗ってやってきた。蜜汁叉焼である。表面は飴色で何度も蜜を塗っては落ち着かせてあるのが素人目にも分かった。しっとりとした上品な味わいのチャーシューはもう有無を言わせないほどの完璧なものであった。
そして「遠江海蜇」は静岡のクラゲと河豚の皮を組み合わせたものであった。これはある意味シェフの全力疾走中の料理の中での「小休止」の様な存在であった。柑橘系の香りが食欲をそそらせてくれた。
次は温かいキジのスープと雲吞であった。中にはゆり根と朝鮮人参が合わせてあった。キジの旨味がたっぷり入ったスープの中にキジ肉を詰めた雲吞が何とも美味しい~そんな茶禅華を代表する繊細な料理を楽しませてもらった。
そして口の中がスープでリセットされた後に出てきたものはこの日のメインの料理
「清淡干鮑」
であった。
料理が出る前に予め干したままの状態の干し鮑をテーブルの上に置いて見せて下さった。干した鮑は元の重さから10分の1ぐらいになってしまうそうである。干す間に旨味が凝縮されどんどん味が濃厚になっていくらしい。
そしてその干し鮑を2日間かけてもどしてやっと料理に使えるようになるのだそうだ。
この極上鮑は縦にナイフで切れ目を入れ、半分をパクリと口の中に放り込み、何回もモグモグすると鮑の濃厚な旨味が口の中いっぱいで楽しめるのである。実際そのようにして頂いたが、もう口を動かして咬むのがこんなに幸せと感じることはないと思えるぐらいの美味しさであった。
そして次は虎河豚の蒸し物にナンプラーとねぎを合わせたものを頂いた。虎河豚と言えばすぐに日本料理を連想してしまうが、中華でもこうやって抜群の料理になるようだ。やはシェフの日本料理での経験が生かされた料理なんだろうね~~
続いても虎河豚の料理であった。今回は「麻辣河豚」であった。茶禅華名物の山盛りの唐辛子のの中に埋もれた鶏肉のから揚げの虎河豚バージョンのようであった。しかもただの虎河豚の身ではない・・・頭を割り揚げられた大きなパーツが唐辛子の中に眠っており、そこから掘り出してかぶりつく・・という楽しい趣向であった。これも美味しかったなあ~~
お口直しの台湾梅干しとイチゴの酢漬けを頂いたのちはフカヒレの姿煮の登場であった。線維が極太のフカヒレに白湯ベースのとろみのあるスープが絡みこれも最高の味わいであった。もうクラクラである・・・
そしてにんにくの香りがする豆苗の炒め物を頂いた後はこの日の肉料理、鳩であった。フレンチでは定番の鳩であるがこの肉は完全に中華の方に軸足を置いており全く洋風な要素は感じることがなかった。最初に足が出てきたが、皮はパリパリ咬むとジューシーでとても旨味の強いものであった。そして胸肉、最後に頭が出てきた。鳩はグロくて正直苦手意識も強かったのであるが、今まで先入観にあった臭みなども全くなく美味しく頂けた。私の中では一つの革命かな~~
最後に〆の清湯麵(ちんたんめん)を頂いた。具も入っておらず単純な料理である。麺とスープのみでの勝負となるが全くの隙も感じることはなかった。抜群の美味しさであった。
デザートは3品、生姜のアイスと晩白柚、温冷両方の杏仁豆腐、最後に胡桃の団子の入ったお汁粉であった。どれも個性的で他のどの店で食べた記憶もない。特に温かい杏仁豆腐は最高であった。
かなりの予約困難店ではあるが次回も訪問できそうである。またの訪問を楽しみに待ちたい。
2022/03/02 更新
2021/10 訪問
日本最高峰の中華を堪能!!
言わずと知れた食べログゴールド、そして2021年度ミシュラン三ツ星を獲得した超予約困難な中華の名店である。こちらの川田智也シェフは、もともとの中華の技法に和食の技を取り入れる「和魂漢才」をモットーに、客にはとにかくタイミング良くベストな状態で提供するということをストイックに実践しているようである。
その模様は昨年のNHK「プロフェッショナル」で放送され私も感動した記憶があった。そんなお店に今回訪問することが叶った。
今回はレギュラーコースではなく特別コースを楽しむ会であった。その中、数ある料理の中でも今回
は特別に佛跳牆(ぶっちょうしょう)を提供して下さった。詳しくは後述するがこれはとにかくすごいスープなのである。
今回通されたのは1階の奥のテーブルであった。窓側で庭の竹が何となく中華を連想させるとても心地良い空間であった。個室もあるようだが、中華は店全体の雰囲気を味わえるこういう大きな空間で頂くのが好きなのである。
さて料理の前にこの日のメニューが説明された。四文字熟語が多数並べられ、何とか読めて想像がつくものが8割、全く想像がつかないものが2割ほどあった。まあ予想できたと思っていたものでも料理を食べて多少違っていたものもあった。
最近ではストレートのメニューよりもこういう客に考えさせるメニューが流行っているようである・・
料理は
①青山緑水 ②酒酔大蝦 ③秋香春捲 ④蜜汁叉焼・・⑦香佛跳牆・と言った具合である。すべてご紹介したいのだが後半はパソコンで文字を探すのも大変な見たことがない漢字が多く出てきたのでこれくらいでご容赦願いたい。
例えば②酒酔大蝦は紹興酒に漬けたボタン海老だったし、秋香春捲はさんまの春巻きであった。
どれも経験したことのない抜群の美味しさであった。海老もすごかったし、さんまの春巻きもはらわたを挟むことによってさんまの旨味を皮の中に閉じ込め旨味を凝縮させていた。
そして次に朴葉みそ用の小さな七輪の上に乗った蜜を塗られたチャーシューがやってきた。蜜の甘みと豚肉の甘みが相まってそこにかすかな八角の香りがアクセントとなりとても美味しいものであった。また添えられた茹でた落花生も手抜かりなし、しっかりと中華の味がした。
続けざまに飴がけの手羽先も同じ感じで頂いた。豚と鶏をほぼ同時に楽しむことができた。
そのあとスダチの中に入ったさっぱりとしたクラゲを頂き、この日の第一のメインとなる佛跳牆の説明となった。
佛跳牆(ぶっちょうしょう)とはいろいろな材料を入れたスープで各店によって味が違うが、その美味しさから修業中のお坊さんでもその香りにつられ、垣根を跳び越えてやって来るというぐらいの美味しさということからこの名前が付けられたらしい。作るのはかなり大変で作れて提供できるお店はかなり少ないようである。私もかつて香港で一度経験したことがあるぐらいであった。
また材料には明確な縛りはなくシェフの裁量によるところが大きい。こちらでは天然の素材を煮込んだだけだとのことで、味を調える塩も一切使用していないとのことであった。
ちなみにこの日の材料を板の上に乗せて見せてもらったが、数えただけで23種であった、その材料は
鹿アキレス腱、豚肩肉、イノシシ腿肉、生地腿肉、ヒグマ腿肉、すっぽん、生姜、鶏手羽、魚の浮袋、朝鮮人参、干し山芋、干し竜眼、干し貝柱、カソウカ、中国モリーユ茸、干しワニ肉、金華ハム、フカヒレ、干し鮑、干しナマコ、鹿の角
であった。当然これは覚えれるものではなく、カンペを頂いたので書けた次第である(笑)
とにかく複雑な味の中、メチャ美味しいスープであった、また出汁を取ったあとの材料も一緒に入っており、スープの出汁の後とはいえまだまだ旨味が残っていたのですべて完食。初めての素晴らしい経験であった。
そして北寄貝の春雨パクチーXOジャンを頂きお待ちかねの第2の山場、こちらの名物四川風鶏のから揚げの唐辛子炒めであった。
大きなお皿に盛られた多量の炒めた唐辛子の中にから揚げが2つだけ入っており、それを取り出して頂くことになった。唐辛子の辛さがから揚げの衣の中にもしみ込んで抜群の美味しさを奏でていた。インスタでよく見るが、単に映えを意識したものではないのである。
辛い物の後には甘いほおずきを頂き、フカヒレの登場であった。気仙沼の青ザメの分厚いものであった。これを姿煮ではなく姿焼きにしてあった。そこにさらにフカヒレを使ったソースをかけることによってフカヒレのカリカリの部分と柔らかい部分の両方を楽しめる、そんな極上のものであった。これもすごかったなあ~~
そしてそのフカヒレを使ったフカヒレご飯もやってきた。そして大きな器が置かれ、ふたを開けるとその中にはジャガイモのように大きな白トリュフが置かれていた。そしてその白トリュフをフカヒレご飯の上にたっぷりかけ頂いたのだが・・・・もう言葉も出ない・・・
白トリュフってやっぱり凄い食材だなあ~~
大根餅を頂いた後は、シェフのスペシャリテ、雲白肉(うんぱいろう)を頂いた。テレビでこれを作るところをやっていたが秒単位で時間を計り、客のテーブルに乗って客が箸をつけた瞬間にベストになるように考えられているとのことであった。ということで長々と写真を撮るのはシェフの思いを踏みにじることになるのでさっと撮影して箸をつけさせて頂いた。河豚刺しのような美しい盛り合わせで、薄い豚肉と茄子が交互に置かれていた。河豚刺しを食べるように2~3枚まとめて箸で取り食べてみると・・・
「美味しい~~~」
感動的な旨さであった。こんなに美味しい雲白肉も初めてである。これぞ三ツ星という感じであった。
この後少々辛めの麻婆豆腐、冷製担々麺、そして清湯麵を頂いた。清湯麺は京都の某中華が一番美味しいと思っていたがそれを覆す逆転ホームランであった。
そしてデザートはココナッツのアイス、杏仁豆腐の温と冷の食べ比べ、お湯の中に入った胡麻団子を頂いて終了となった。
3時間を超える長丁場であったが期待値がマックスであり、それを裏切らない美味しさだったので大満足で家路につくことができた。
スタッフのまとまりも良く、細かいことにすぐに気が付いてくれサービス的にも私が経験した範囲では最高ランクであろうと思われた。
シェフは忙しいのに最後に見送りに出てきてくれ、タクシーが遠くに行くまでお辞儀をしていてくださった。また必ず再訪したい最高の店に出会え、最後まで幸せな時間を過ごすことができた。
一流店とはかくあるべき、そんなお手本のようなお店であった。
2021/10/12 更新
定期訪問中の大好きなお店にまたまた訪問することができた。前回訪問から約半年・・・他のどこにもない中華を楽しめるお店なのである。
店に入ると良い店に感じる凛とした空間がありこれから頂けるであろう料理について思いを馳せ、いろいろなことが頭を巡るのだ。そして料理の始まる前には必ず川田シェフがあいさつに来てくれるのである。
この日も最高のおもてなしの中、文句の言いようのない料理を楽しむことができた。真の一流店というのはこういうものだ、ということを地で実践しているような店なのである。
かつてNHKの「プロフェッショナル」に出演されていた時に一番大事にしているのは提供した時に一番良い状態に仕上がるようにする「時間軸」ということをおっしゃっていた。
そのこだわりは生半可なものではなくはたから見ても鬼に見えるような拘りようなのである。
今回もこだわってこだわってこだわりぬいた最高の料理の数々を楽しむことができた。
この日は
月桃の出汁素麺
帆立の紹興酒漬け
紹興酒に浸けて酔っぱらわせた素揚げのドジョウ
ほおずきと豚肉の団子
炭火で頂く叉焼(甘蜜叉焼)
琵琶湖産1.5㎏の天然うなぎ 白焼きとたれ焼で
カボスの中のクラゲと鶏肉
雉の雲吞スープ、クレソン
クエの炭火焼き
唐辛子の中に手羽先とその中にすっぽん
八角添えのほおずき
鮑とフカヒレ、毛蟹ご飯
蒸したオクラキングに金華ハムを擦ったものを乗せて
ウズラの丸焼き、飴焼で
清湯麺と毛蟹で作ったXO醤
ライチ紅茶とアイス
杏仁豆腐
であった。いつものようにメニューは漢字4文字の熟語のみであった。何が出てくるか想像するだけでも楽しい。この趣向は京都の仁修楼などでも最近はおなじみのものとなっているのである。
生きたドジョウを酔っぱらわせる酔っ払い海老ならぬ酔っ払いドジョウはさすがの美味しさだったし、定番のチャーシューの蜜焼はジューシーな身と甘いタレがベストマッチングで最高の美味しさを楽しませてくれた。
うなぎの焼き物はこちらでは初めて頂いたがこれも驚くほど繊細なものであった。たれ焼だとどうしても和食になってしまいそうだが軸足はしっかり中華でとても美味しく頂くことができた。
もう一つの定番である山のような唐辛子の中に食材を入れる料理は前回は河豚であったが、今回は手羽先であった。しかもただの手羽先ではない!!中にはすっぽんが入れられていたのである。見た目はかなり辛そうな料理ではあるが素材の旨味と唐辛子の辛みが相まって素晴らしい味になっていた。
また清湯麺は単純なだけにごまかしがきかない料理だと思うがこれもぐうの音が出ないほどやられてしまった。ホント身震いするほどの完成度の高さである。
今回も最高の体験をさせて頂いた。これからも通っていきたい、そんなお店なのである。