2回
2021/01 訪問
トップランナー
休日に訪問。
ミシュラン14年連続三つ星を始め、食べログGOLD五年連続受賞、ゴエミヨ「今年のシェフ賞」と数々の賞を獲得してきた名店中の名店。
食べ歩きを始めた当初からいつかは行きたいと思い続けていましたが、キャンセル枠と思われる空席を運良く押さえることができ、ついに訪問が叶いました。
◎雑記
・最初はウェイティングルームに通され、時間ぴったりに席へと案内されるグランメゾンの方式です。店内は焦茶色と金色の落ち着いた内装であり、コロナの影響もあってか席間は広めでゆったりと過ごせました。
・コース内容は王道のフレンチですが、日本固有の食材を始め意表を突く食材が数多く登場します。かといって雑多な印象は一切なく、これは紛うことなきフレンチなのだと思える一貫性のようなものがあります。これは食材の本質を見極める正確な認識力、調理技法などの技術、試作を重ねる努力など様々な要素が重なった結果と言え、シェフの探求心や途方もない努力の一端を垣間見たように思います。
・料理ごとの感想は下記に記載していますが、何といっても火入れが強く印象に残りました。特にメインの魚料理・肉料理の二皿は白眉であり、その美しいビジュアルは写真として記録に残せないのが極めて残念です。低温長時間火入れは現代日本において広く用いられる調理技法となりましたが、起爆剤となった同店のそれは確かに他店の模範となる完成度を誇っており、大げさかもしれませんが歴史そのものを体験するような感慨がありました。
・料理単体の完成度もさることながら、サービス陣のクオリティの高さにも驚かされます。スタッフはほぼ全員ソムリエバッジを着用していますが、テイストを食材や具体的なニュアンスに例え、ベタな表現が一切ないこともあり非常に説明が分かりやすかったです。距離感も絶妙で、時には茶目っ気のある対応で場を和ませ、来店時の緊張も途中からは完全になくなっていました。せっかくの機会なのでペアリングを頼みましたが、細かく量を調整して頂けたこともあって飲み疲れも一切なく大満足でした。
・気付けばあっという間に三時間が終了し、不満が一つも見当たらない完璧なディナーでした。飽きが一切来ずあっという間に時間が過ぎた理由について考えてみましたが、提供が極めてスムーズだったことも大きいですが、何より提供される各料理がオリジナリティ・クオリティの両面において他店で味わえないような品だったことが最大の要因だったと思います。高級店でも一種のトレンドのようなものがあるようで、食べ歩きをしていると高価格帯のお店でもある程度似たような料理に出会うことも多いですが、同店の料理は他のどこでも食べられない品だけで構成されており、終始新鮮な発見の連続でした。退店時にはシェフに挨拶に来て頂けましたが、ストイックな雰囲気からは長年業界の第一人者でありながらもさらに上を目指そうとする探求心のようなものが感じられ、それを日々料理にアウトプットしているからこそこの店が成り立っているのだろうと思いました。飲食界において絶対的な地位を誇るトップランナー、その所以を体感できた貴重な体験でした。
◎料理詳細
(口頭での説明をメモしたため、間違っている可能性あり)
特に美味しかったものは☆を記載。
①サブレ セイコガニの内子と外子、アーモンドパウダー
一品目はフィンガーフードとしてサブレが登場。一口で食べられる大きさですが、カニの旨味が凝縮されており非常に力強い味がします。目の覚めるような一皿であり、これから始まる料理への期待が高まるスタートでした。
②小さなスープ 香茸 イタリアンパセリ、生ハム、レバー …☆
二皿目はスープです。香茸(こうだけ)という日本のキノコがベースとなっています。フレンチで香茸を食べるのは初めてでしたが、生ハムやレバーといった食材と合わせることでフレンチのスープとして全く違和感のない仕上がりとなっています。食材の知識と正確な解釈がないと考えつかない組み合わせに驚かされました。
③山羊乳のババロア オリーブオイルとゲランドの塩、マカダミアナッツと百合根 …☆☆
食べ歩きを始めてから一度は食べてみたいと思っていた名物料理がここで登場。リピートするとほぼ同じメニューを提供しないことを信条とする同店において、不動のスペシャリテとなっています。純白のビジュアルは写真で見る以上に美しく美術品と言っても過言ではないオーラを放っており、モダンフレンチに属する同店を象徴するかのような一皿です。恐る恐る口に運ぶと、驚くほど滑らかな舌触りとシャープかつクリアな味に驚かされました。少しでもバランスが崩れると料理として成り立たなくなりそうな繊細な料理ですが、塩が見事に全体をまとめる役割を果たしています。他店でも似た組み合わせは何度か食べていますが、オリジナルは格が違うと実感しました。
④根室のウニ、サクラエビ、ホッキ貝のタルトフランベ
続いて登場したのはタルトフランベ。薄い生地に様々な魚介類が乗っています。どこかイタリアンを彷彿とさせる味ですが、素材任せにならず一つのフランス料理として調和しているように感じます。他店ではメイン級の食材と成り得る組み合わせですが同店は前菜の位置付けであり、期待がますます膨らんでいきます。
⑤冷たい白子、ウイキョウ、ケッパー、ライムとオリーブ乗せ 熱々のピーカンナッツをかけて …☆
白子の上にウイキョウをはじめハーブが乗ったサラダ仕立ての一皿。仕上げに熱したピーカンナッツが別皿で供され、サービスの方がかけることでテーブル上で料理が完成します。キッチンとテーブルが離れたグランメゾンにおいて一つの皿上に二つの温度帯を共存させるという難題を逆転の発想でエンターテイメント性に富んだプレゼンに昇華しているのは見事です。味はもちろんのこと、考え抜かれた提供方法にも驚かされる一皿でした。
⑥牛ミノの網焼き サラダ乗せ バルサミコソース …☆
前菜のラストは牛ミノ。食の経験値が乏しいため焼肉店でしか食べたことがない食材ですが、完璧な火入れとバルサミコソースとの調和によって焼肉とは全く別ベクトルの料理へと変貌しています。ボーダレスな食材のチョイス、そしてフレンチへの昇華という事例を同店では数多く発見しましたが、最もそれをダイレクトに感じる一皿だったと思います。
⑦寒サワラ レモンとハマグリのソース ヘーゼルナッツとアンチョビ、ひろっこを添えて 付け合わせにラビオリ、ちぢみほうれん草、菊芋 …☆
満を持して魚料理が登場。寒サワラは同店の代名詞とも言える低温火入れが施され、完璧としか言いようのない火入れ具合です。ソースはレモンの清涼感をベースにしながらもハマグリの出汁がコクを加え、バランスが取れた味付けとなっています。ちりばめられているのは秋田県の名産品、アサツキの新芽であるひろっこ。ネギに似た風味ですがネギほど主張が激しくなく、メイン食材を食わない程度の自己主張となっています。食材の見識の広さとチョイスセンスをここでも感じました。
⑧蝦夷鹿のロースト、みかんとタイムのソース 付け合わせに海老芋のフリット …☆☆
メインは蝦夷鹿。やはり火入れは完璧であり、ナイフで切る作業に楽しさを見出せるほどです。言わずもがな臭みは皆無であり、ハイレベルな前菜から高まった期待をしっかりと受け止める堂々たるメイン料理でした。ソースはみかんとタイムで作られており、魚料理同様に柑橘を用いることでバランスを取っていました。
⑨モンドールチーズ、アーモンド、いちじくのパン(追加)
デザートの前に追加でチーズを頂きました。ワインとチーズを楽しみながら先ほどまでの料理の余韻に浸ったり、感想を語り合ったりしました。こういった余裕のある時間配分はグランメゾンの醍醐味であり、せわしなくなりがちなカウンター式の店と一線を画した魅力を感じます。
⑩ふきのとうのソルベ オリーブの種乗せ
デザートのトップバッターはふきのとうで作ったソルベ。デザートも意外性のある食材からスタートします。ふきのとうが持つ柔らかな苦みが冷たいソルベにマッチしており、口の中をリセットさせるという意味でも優秀な一皿でした。
⑪いちごのショートケーキ …☆☆
続く二皿目はいちごのショートケーキ。名称こそ至極一般的なメニューですが、大きなサイズのいちごを2等分し、その上にスポンジとクリームが乗っているという通常のショートケーキを上下逆さまにしたような奇抜なビジュアルとなっています。「子供のころ、ショートケーキを買ったときにイチゴが少なかったという残念な経験から着想を得た」という発想力が光る一皿であり、食べると口いっぱいにいちごの味が広がります。中にはバラの飴が入れられており、香りと食感にアクセントが加わって一噛みごとに違った味わいになるのが面白いです。着眼点もさることながら生クリームやスポンジなど各パーツの完成度も抜群であり、スイーツ専門店顔負けの素晴らしいデザートでした。
⑫栗のガレット クリーム乗せ
デザート三品目は栗のガレット。メニューを言われる前から栗だと分かるほどに香り高いです。栗と生クリームというかなり濃厚な組み合わせにも関わらず不思議とすんなりと食べ進められるのは、恐らくふきのとうのソルベから徐々に濃い味へと変化していくことで口が甘いものに慣れたことによるものでしょう。デザート間にも起承転結が考えられていると感じる一皿でした。
⑬メレンゲのアイス 能登の海水かけ
デザートのラストを飾るのは、同店のスペシャリテであるメレンゲのアイス。この皿のキーになっているのは上にかけられた能登の海水であり、甘味の後には塩味と苦味が口の中に残ります。アイスに塩という組み合わせはよく見かけますが、塩にはない苦味を加えることで味に奥行きが加わっていたように感じました。
⑭エスプレッソ、菩提樹のハーブティー 小菓子 誕生日記念に薔薇の飴細工
最後は食後の飲み物。私はエスプレッソ、同行者はハーブティーを注文しました。小菓子とともに美しい薔薇の飴細工が誕生日祝いで登場。予約したのは来店数日前であり、駄目元での依頼でしたが我儘を叶えてくれました。終始大満足のディナーでしたが、最後にもう一つサプライズが加わり更に満足度が上がったように感じます。
◎滞在時間
約3時間
◎料金
¥88,810(コース、ペアリング、追加チーズ 各自¥44,890、¥43,920 明細なし)
2021/07/26 更新
◎概要
JR品川駅から少し歩いたところにあるフレンチ。ミシュラン15年連続三つ星、食べログGOLD六年連続受賞中など数々のグルメアワードを総なめにする名店です。今回はOMAKASEよりお取り寄せでスイーツを頂きました。
◎雑記
・同店がお取り寄せで展開するのは「ガトー・オー・コンテ」、「ガトー・アルマニャッケ」の二種。今回は前者を注文しました。どちらもOEM製造でなく実店舗で製造・発送しており、プロデュースだけ担当し製造は行わないという店も多い昨今においては珍しいスタイルです。店の名前を冠する以上、絶対にクオリティを落とさないという矜持が感じられ、公平性を期すために完全抽選制というスタンスも素晴らしいです。
・ガトー・オー・コンテはいわゆるチーズケーキ。ブームであり競合の激しいチーズケーキ業界において、敢えて同店が既存商品の問題と改善余地を抽出し、研究を重ね解決させたという挑戦的な商品です。「単調さ」「チーズケーキと言いながらチーズの存在感の薄さ」「卵の匂い」「濃厚さからくる重い食後感」「食感の悪さ」「タルト生地がある場合はそれが湿気ってしまっている」という6個の課題を一つのチーズケーキで同時に解決するという離れ業のような所業ですが、更に香辛料やフルーツを用いずにあくまでも「チーズ」ケーキで勝負するという条件まで課しており、搦め手を封じるという難題で自らハードルを上げています。
・ケーキは三層構造で、上部はベイクドチーズケーキ、中部はレアチーズケーキ、下部はタルトと三つのケーキを組み合わせたような内容です。合わせて頂くことが推奨されていますが、まずは敢えて各層だけ一口ずつ頂きました。上部ベイクド層は商品名になっている36か月熟成のコンテチーズを用い、濃厚でチーズの風味を存分に感じながらも癖のないピュアな味わいであり、上質かつチーズケーキに適したチーズを選んでいることが分かります。中部レアチーズ層はサワークリームとクリームチーズで作り、嫌な感じのない酸味と滑らかで軽い印象。下部のタルト層は砕いたナッツが生地に練り込まれ、冷凍食品にも関わらず製造当日かのようなクリスピーな食感とナッティな香ばしさをしっかりと感じます。同店が打ち出す課題を各層が解決しており、完成形の全部一緒に頂いたものがどんな味になるのか、期待が膨らみます。
・全ての層にナイフを通し一緒に頂くと、最初に感じるのは上部の濃厚なチーズの味。ベイクされた香ばしい風味が口内に広がりますが、それが後味になる前に中部の爽やかな酸味が回収するかのように顔を出し、キレの良さを感じる後味となっています。下部のタルト層は前述の通り時間を経てもなおクリスピーな食感を保っており、ケーキ全体を軽やかでメリハリのあるものへと変えています。口内で次々と印象が変化する味わいに単調さは皆無であり、食べ進めていくうちに飽きることもありません。ハイクオリティな各パーツが絶妙なバランスでまとまっており、食べながら味と食感が変化していく様は一流のレストランの一皿さながらの完成度でした。
・チーズケーキはどちらかというと苦手な部類だったのですが、同店のそれは別次元のものとなっており、冷凍での配送商品にも関わらず作者の色が明確に感じられるということも含め様々な点で既成概念を覆すチーズケーキでした。高額かつ抽選制ではありますが、一度食べてみる価値はあるケーキだと思います。おすすめです。
◎滞在時間
なし
◎料金
¥5,400
(ガトーオーコンテ)