スパニッシュにおける第一人者的な存在 : スリオラ

◎概要
東京メトロ銀座駅近くにあるスペイン料理店。2022年現在ミシュラン二つ星を持つ唯一の店であり、食べログアワードも六年連続で受賞中という同ジャンルにおける第一人者的な存在です。


◎雑記
・スパニッシュというと食べ慣れない印象がありますが、同店のコースはどこか日本料理やフレンチを彷彿とさせる品が多く、食べる機会の少ないスパニッシュでも不思議と違和感なく頂けます。全体を通してクオリティの高い皿が多かったのですが、特にスペシャリテとメインの素晴らしさが群を抜いており、コース内でのメリハリもついていたように思います。また驚いたのがノンアルコールの引き出しの多さであり、スパークリングやスパイスをきかせたオリジナルのノンアルコール白ワインなど料理に合った面白い品々が出され驚かされました。

・誕生日ディナーでの訪問であったため個室利用しましたが、プライベート感のある落ち着いた空間であり、食事と会話に集中することができました。サービスの方は雰囲気を邪魔しない程度にサーブのタイミングで二言三言会話を交わす適度な距離感であり、好みの空間でした。一点気になったのが、個室近くにバックヤードがあるのかサービススタッフ同士の会話が個室にまで漏れていた点です。そこまで気になるレベルではありませんが、接待などで使う際は注意が必要かもしれません。

・一番高いコースに加え個室利用と恐らくこの店の上限支払額に近い贅沢な使い方をしましたが、それでも支払額は三万円台であり、店の格や立地を考えると非常に良心的という印象です。独創的でありながらどこか親しみがあり、全体的な完成度も高いのにメリハリも感じる素晴らしいコースでした。スペシャリテは是非また食べたい一皿ですので、ぜひ再訪したいと思います。

◎料理詳細
特に美味しかったものは☆を記載。

①アミューズ2種
一口サイズのアミューズが一人二種提供でスタート。一つはパイ生地の中にカタルーニャ産のアルベキーナ種オリーブオイルを入れたもので、フレッシュなオリーブオイルの味わいが目の覚めるような味わいです。もう一つはジャガイモのスフレにチョリソーのピューレを乗せたもので、こちらもはっきりとした塩気が素晴らしくスパークリングに良く合う味わいとなっています。少量ながら鮮烈な味わいであり、これからスペイン料理を頂くということを明確に意識させる素晴らしいアミューズでした。

②少しレアに焼いたチョリソ
イベリコ純血種の豚肉を腸詰めにせず、炭で焼いたものです。腸詰め特有のパリッとした味わいがないのが逆に新鮮であり、炭の香りで臭みを消すことにより豚肉独特の旨味のみを抽出したかのような濃厚な味わいが楽しめます。　

③3種のタパス　（バカラオ、イカ、イワシ）　…☆
前述の二品に続き、まだまだ前菜が続きます。一つめは甲イカのタルタルにゲソから抽出したエキス、上部にイカスミのチップスを添えたイカ尽くしの一皿。イカの持つ様々なニュアンスを調理後に再度合体させ、その風味が余すことなく伝わってきます。二つめはシオダラのブランダーダをブニエロ(フリット)にしたもので、サクサクとした食感とタラ特有の後に引く旨味がたまりません。三つめはマイワシにモホソースとパセリのジュレを乗せ、コカ(スパニッシュパン)に乗せたフィンガーフード。丁寧に包丁を入れられた様から光り物の寿司を想起させますが、ライムの酸味とパセリの風味によって見事にスパニッシュな風味へと昇華されています。いずれも非常に手の込んだ品であり、ドリンクとの相性も抜群。前菜の時点で実力をはっきりと感じる素晴らしい品々でした。

④サルモレホ、レモン風味のホタテ貝とフランボワーズのピュレ　…☆
続いては著名なスペイン料理の一つであるガスパチョの原型とも言われる「サルモレホ」です。レモンでマリネしたホタテ、アボカドのムース、凍らせたフランボワーズが添えられ、目の前で冷製のサルモレホが注がれて完成します。トマトとパン生地で作っているとのことですが、その少ない食材のみで出来ているとは思えない深みのある味わいに驚かされます。他食材との合わせ方もセンス抜群で、レモンやフランボワーズといった酸味を持つ食材と合わせることでよりトマトの味が際立っている印象です。

⑤富山湾産ホタルイカ　焦がし玉ネギのフラン
続いてはホタルイカを主題に置いた一皿。茶褐色のスープが目を引きますが、これは玉ねぎを炭焼きにした後六時間煮込み作ったスープとのことです。その手間が反映されたかのような深みのある味わいにホタルイカの内臓の濃厚な味がマッチしています。アクセントにはナッツとセミドライトマトが添えられ、どこかバルテイストになった味はアルコール、ノンアルコール問わずドリンクをどんどん進めさせます。　

⑥軽く燻したキャビアのラビオリ　…☆☆☆
同店のスペシャリテである一皿。贅沢にこんもりと盛られたキャビアはブドウの枝でスモークにし、冷燻仕立てに。ラビオリの中には焦がし玉ねぎのソースとスライスした大根、上部にはうなぎの白焼きを添えています。塩気や食感のアクセントに使われることが多いキャビアですが、こちらの料理はキャビアをメイン、ラビオリを添え物と位置付け、敢えてラビオリとは別添えにしているとのことです。キャビアのみで頂くと、塩気のみならず魚卵の旨味、鼻にふわっと抜けるスモークの香りと驚くほどの情報量が口内に広がり驚きます。キャビアを一つの食材として正確に捉えていなければ出来ない芸当であり、ただ盛り付けただけのキャビアとは次元が違う味に感動を覚えます。モチモチに仕立てたラビオリとも相性がいいですが、大根や鰻といった和食材との相性にも驚かされます。特に白焼きにした鰻の相性は和の調理技法とスパニッシュの調理技法の共通点を的確に捉えたかのような自然さであり、日本料理の名店「龍吟」での修行の成果が遺憾なく発揮された結果と言えます。この料理単体でももう一度食べに行きたいと思えるほどの傑作であり、私の中での同店の立ち位置を決定付ける一皿でした。

⑦スペイン産生ハムのサラダ　トマトとケッパーのジュレ
葉物野菜を中心に蕪、カリフラワー、ゴボウなども加えた盛り沢山のサラダに、クルマエビやスペイン・ホセリート社の生ハムなどを加えた一品。スイス産牛乳のホエイドレッシングをその場で回しかけ完成します。メインに向けての箸休め的な位置づけの一皿ですが、美しい盛り付けやドレッシングの滋味溢れる味わいからも手が抜かれていないことが分かります。

⑧パン、オリーブオイル、バター
魚料理に合わせてパンが供されます。バターはホイップされており、フルーティーなオリーブオイルと合わせてパンにつけると非常に華やかな味わい。これだけで一皿として成り立ちそうな完成度です。希望すればもっと前に提供して頂くことも可能とのことですので、お腹に余裕のある方は是非試してほしいです。

⑨甘鯛の鱗焼き　カレー風味のバスクシードラソース　…☆
魚料理は甘鯛の鱗焼きです。ガルム・シードル・カレーで作ったソースをかけ、レモンと生姜のエスプーマ、アスパラの薄切りを添えています。こちらも和食のニュアンスを含めた一品ですが、ソースによるスパニッシュナイズドが見事であり、全くの別物へと変貌を遂げています。和食としての鱗焼きも嫌いではありませんが、敢えて完成された一つの日本料理から更に一歩踏み込んだその革新性に敬意を覚えます。エスプーマも単なる飾りでなく、薬味のように味に変化を与える役割を果たしており隙がありません。

⑩熊本県産あか牛の炭火焼き　マンチェゴチーズとルッコラの”スエロ”　…☆☆
メインの肉料理は王道の炭火焼き。「スエロ」はソースのことで、ルッコラのエキス由来の新緑色のカラーが鮮やかです。火入れも当然かのように完璧ですが、マンチェゴチーズのクセを活かしたコクのあるソースが赤身の旨味を一層引き立て、力強い旨味に唸らされます。昨今のトレンドである牛肉+赤ワインソースに若干飽きてきた身としては、その新鮮さも相まって過去食べた中でもトップクラスの肉料理だと思いました。添えられているのはチコリーのホイルオーブン焼きで、こちらもソースとの相性抜群です。しっかりと中心部まで熱が通り柔らかくなっているためか、肉の絶妙な火入れが一層意識しやすいように思えました。

⑪レモンのソルベテ
デザート一品目はレモンのソルベです。ライムのメレンゲ、オリーブオイルと共に頂き、口内をさっぱりさせます。フィンガーフード的な大きさであり、徐々に口内を甘味に慣らすような一品です。

⑫とちおとめのタルタ　サフランのクレーマとヨーグルトのアイス
二品目はとちおとめを細かく刻んでタルト仕立てにしたものです。サフランの微かなスパイスが全体を引き締め、甘すぎず淡白すぎず、バランス良く仕上げているような印象です。

⑬自家製チョコレートと食後のお飲物　…☆
最後を締めくくるのは自家製のチョコレートのアソートです。四種のボンボンショコラはライム、黒糖、アマゾンカカオ、濃厚なガナッシュとそれぞれ異なるフレーバーであり、手の込み方、味共に一流のショコラティエ顔負けの味です。カカオの殻で取ったジュースや、バラの造花に乗せたバラのゼリーも同時に提供され、盛り沢山の内容です。よくあるフルコースではこのタイミングではミニャルディーズを少量というのが一般的ですが、同店においてはラストがデザートのピークと言えます。誕生日訪問だったため、皿には「Feliz cumpleaños(誕生日おめでとう)」の文字を書いて頂けましたが、スペイン語で誕生日を言われた経験はなかったので新鮮で嬉しかったです。

◎滞在時間
約3時間30分


◎料金
¥74,228/2人
(コース¥25,000×2、マノワール・デ・サクレ¥1,500×2、ノンアルコール白ワイン¥1,200×2、ソランデカブラス¥1,400、個室料¥5,000)+税・サ